Media Programming

メディア・テクノロジーのパラダイムシフト

数十年前までは異なるテクノロジーの上に構築されていた音楽、印刷、写真、映像といったメディアは、今ではその全てがデジタル技術で完全に置換された。DTM(デスクトップミュージックは和製英語、英語ではComputer Music)、DTP(Desktop Publishing)、DTV(Desktop Video)の名称が意味するように、全てコンピュータによって制作されるようになった。音楽、印刷、写真、映像のすべての業界では、それまでのアナログ技術が崩壊し、そこに関る技術者や制作者の笑い話とは言えない人員整理さえ起こったのだ。


レコード、CD、テープレコーダー、オープンリール、iPod


活版、写植、DTP


映画用35mmカメラ、映写機、BETACAM-SP業務用カメラ、VHS、プロジェクター、デジタルシネマカメラ

メディアのデジタル化自体は、技術者や制作者にとって大きな変革であったものの、視聴者や閲覧者から見ればコンテンツとしての受け取り方そのものに変化はなかった。それよりもインターネットやスマートフォンという端末の出現のほうが革命的であり、「観る、聴く、読む」環境を変えた。デジタル端末は音楽=レコード、映像=TVや映画、文字情報=印刷物、写真=印画紙というそれまでのメディア=モノのイメージまで取り払った。

一方、作品表現という意味では新しいテクノロジー=新しい表現であり、制作者にとってはチャンスでもあった。先進的は制作者は、このデジタル化の波を受け入れ、乗り越えることによって新しい表現や制作手法を生み出していった。コンピュータを使った制作は単にこれまでのアナログツールをデジタルツールに置き換えるだけでなく、プログラミングを用いてそれまでの手法では到底作り出せないものまで生みだした。音楽や視覚メディアの表現だけでなく、実体である製品や建築物のデザインにも広がっている。

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メディア・プログラミングの出現

もともとコンピュータとは科学や産業に関るプログラミングを行うための装置として開発されたものであった。コンピュータアートと呼ばれるようなものも1950年頃から存在したが、一部の革新的アーティスト(技術者)が行っているのみであり、一般的にはアーティストやデザイナーが簡単にプログラミングに手を出せるものではなく、当時のCG技術を考えれば表現力としても限界があった。


A. Michael Noll, “Four Computer-Generated Random Patterns Based on the Composition Criteria Of Mondrian’s Composition With Lines” (1964) →参照

コンピュータが現在のようにGUI(Graphical User Interface)をベースとしたOS上にアプリケーションを走らせて作業を行う形態は、一般にはWindows 95が発売された1995年頃から始まり、その後、デジタルビデオカメラやDTPが生まれて前述のようにメディアテクノロジーのパラダイムシフトが起きることになる。

1995年頃のプログラミングはコンピュータの専門家である技術者が行うものであり、メディア・プログラミングのようなものは生まれていなかった(生まれはじめていた)。1996年にMITの准教授に着任したジョン・マエダはDesign by Numbersプロジェクトを開始(現在もプログラムを体験できる)し、デザイナーやアーティストのためのプログラミングとは何かを模索していった。そして、ジョン・マエダの学生であったベン・フライやケイシー・リースによってProcessing(2001年試作、2008年1.0)がリリースされた。

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Processing

Design by Numbersを前身として、ベン・フライとケイシー・リースによって開発されたJavaベースのプログラミング開発環境。2001年にプロトタイプが発表され、アルファ版、ベータ版を経て2008年にバージョン1.0がリリースされた。2017年12月現在バージョン3.3.6が最新。

Ars Electronica Goldene Nica Net Vision  Benjamin Fry, Casey Reas

http://processing.orgから無料でダウンロードできる。Windows、Mac、Linuxに対応。オープンソース。テキストベースのIDE(統合開発環境)にプログラムを入力し、Runボタンを押すだけで実行できる。様々なライブラリが実装されており、サンプルプログラムで動きを確認しながらプログラミングに慣れていくことができる。日本語の書籍も多数発行されており、独学でも十分習得できる。

個人の印象では、どちらかというとグラフィックの描画を得意とし、テキストベースで短時間で試行錯誤を繰り返せるのでGenerative Artのアルゴリズム構築に長けていると言える。下図はhttp://www.generative-gestaltung.deに公開されているサンプルによって生成された画像。

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openFrameworks

openFrameworksは、Zachary Lieberman(下図左)とTheodore Watson(下図右)が中心となって開発したC++プログラミング言語ライブラリの集合体。Processingに大きな影響を受けており、アーティストやデザイナーのためのプログラミング環境としてJavaよりも低レベル(ハードウェアに近い)言語であるC++を採用。コンピュータのポテンシャルを最大限に引き出すメディア・プログラミングを行うことができる。openFrameworksは日本語サイトも充実しており、解説書のPDF版がCCライセンスで無料で手に入れることができる。

ProcessingのベースであるJavaはハードウェアの違いをJava APIが吸収するため、C++より効率的な開発を可能にしたが、動作が遅いのが弱点であった。openFrameworksでは、C++の高速動作を生かしながら簡単にプログラミングができるよう、開発環境の準備の肩代わりをしてくれる。openFrameworksはProcessingのように独自のIDEや言語をもたない。そのため、手持ちのコンピュータにあったIDEを自分で準備する必要がある。MacではXcode。WindwosやLinuxではCode::Blocksなど。

以下はopenFrameworksを利用した作品例。

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Cycling’74 Max

Cycling’74が開発、販売しているJavaベースのグラフィカルなプログラミング開発環境。元はフランス国立音響音楽研究所(IRCAM)の研研究員であったMiller Pucketteが音楽をプログラムするために開発したもの。その後、音響処理や映像処理の機能が強化され、メディア・プログラミングやインタラクティブアートにも用いられるようになった。過去にはMax/MSP/Jitterという名称で販売されていたが、現在はMaxに統合されている。日本ではMI7が日本語版を販売。Windows、Macで動作。

ProcessingやopenFrameworksと決定的に異なるのは、独自のグラフィカルなインターフェースにある。テキストを打ち込むのではなく、オブジェクトと呼ばれるボックスをパッチコードで接続しながらプログラムを構築するため、視覚的にプログラムの構造を理解しやすい。音楽制作に特化した機能を実装しており、坂本龍一など著名なアーティストにも利用されている。

上図は「2061:Maxオデッセイ」のサンプルパッチ

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Pure Data

Pure Dataは、Maxの開発者でもあるMiller Pucketteが開発したもので、こちらはオープンソースのフリーウェアとなっている。Maxと同じくグラフィカルなプログラム開発環境。Mac、Windows、Linux対応。近年、日本語書籍や日本語サイトが充実し始めたことから、コミュニティの和が広がりつつある。Raspberry PI(Linux)上でも動作するため、応用範囲が広がり再注目されている。

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Touch Designer

Touch DesinerはWindows環境におけるインタラクティブアニメーション制作ツールとして開発され、OpenGL機能、Pythonスクリプト機能などを実装しながら、2017年にはMac版がリリースされた。MaxやPure Data同様ノードベースのグラフィカルプログラミング環境。リアルタイムの映像効果に優れており、ライブ演出やプロジェクションマッピングなど大規模なシステムも安定動作させることができることから、近年広がりを見せている。Pro版は有料。自主制作目的では機能制限付きで無料で利用できる。日本語サイトや書籍も充実してきている。

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Adobe Animate

旧Adobe Flash Professional。元はタイムラインベースのベクターアニメーションを制作するためのツールにActionScriptやビットマップ処理、映像処理の機能が実装されたことで、様々な用途に利用されるようになったが、Flash Playerは安定性やセキュリティ面で課題があり2020年末までに提供終了となる。今後はHTML5やWebGLなどの代替技術に置き換わる。Adobe Animateはこれらの技術をベースに再開発された。メディア・プログラミングを行うことも可能だが、ActionScript自体が独自の言語であるため、最新のテクノロジーを使うにはワンテンポ遅れる感がある。ウェブ上のコンテンツ or アニメーションの制作に適している。

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Quartz Composer

Appleが開発するMac専用のビジュアルプログラミング環境。MaxやPure Dataのようにパッチを接続してプログラムを行うものだが、若干趣が異なり、モーショングラフィックスの制作に適している。Quartz Composetは、Mac OSのグラフィックエンジンであるQuarzがモジュール化されたもので、高速動作による滑らかの動きを生成できる。インンタラクティブコンテンツの制作も可能。

Apple Developer Centerへ登録して、Graphics Tools for Xcodeを検索してダウンロードできる。2017年12月現在のmacOS High Sierraでは動作しない。開発終了かどうかは不明。利用したい場合は旧OSへダウングレードする必要がある。

WOWの鹿野氏主催の未来派図画工作サイトで様々なサンプルをダウンロードすることができる。

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